「ボク、女だったら良かったのかなぁ」
「はぁ?」

突拍子も無いプラムの発言に、思わず、大きな声が出た。
さぞかし口も大きく開いているだろう。今もし、目の前に鏡があって、そんな情けない自分の姿を見せられたなら、即、叩き割っていたかもしれない。

「はう?ロードさん、どうしたですか?」
比類なき美貌の少女を絶句させた張本人、プラムは不思議そうに大きな目をしばたたいている。
髪を高く結い上げたオリエンタルな美少女・・ロード・クロサイト・・は、しばらく無言でいたが、やがて、頭を掻きながら、
「お前の思考回路が訳わかんねーのは、今に始まったことじゃねえよな・・。俺としたことが不覚を取っちまった」
浮いた腰を元に戻した。
「む、むむむ〜。何だかすっごくバカにされてる気がするです〜」
ロードのそんな様子を見て、プラムは頬を膨らませる。
「あ、分かった?お前でも、これっくらいの意地悪は分かるんだな」
皮肉っぽく、ロードが口の端を歪めた。む〜、と唸りながらプラムは拳を握ってぱたぱた動かしている。怒りの衝動にかられているらしい。
だが、それもロードにとっては、「怒り」とは縁遠い感情であった。
世の中の概念や、これまで身に付けてきたあらゆる物事に対する定義が、このプラムにかかると全く的外れで意味の無いものになってしまう。
今までの価値観が一気にひっくり返されるような・・いや、そんな良いものではない。
ただ単に、訳の分からない生物なのだ。
このプラムは。

「でさ、お前が何でいきなりそんな発言したのか、俺にはさっぱりまるっきりぜんっぜん理解出来ないんだけど」
横目に半人半獣の子供を見る。
山猫のような耳を旗のように立て、プラムはロードを見た。少し、驚いているようだ。
だが、何に驚いているかまではやっぱり理解出来ない。
「あのですね〜」
ゆっくりとプラムは話し出した。

「言ったのはジェイドさんなんですよ〜。会ったばかりの頃ですけど。ボクが女の子なら良かったのにって」
深緑色の髪をした、斜に構えた表情の男が脳裏に浮かぶ。
「ジェイド・・っつーと、そっちの王子の参謀やってたあいつか・・。そんなこと言ったのか?・・まあ、そのほうが世の中みんな納得すっかもしれねえけどなあ・・」
「むむむ〜!ロードさん、またボクをバカにしてるですね〜!ボクだって、まだ子供だから今はこんなですけど、もう少し経てば・・」
「あーはいはい。がつっとどわっとなるんだろ?分かった分かった。で?何で参謀殿はそんなこと言ったんだよ」
長くなりそうなところを手のひらで制して、ロードは続きを促した。
「えーとですねえ・・」
一瞬、プラムの大きな瞳が曇った。

「ボクは、アプラサスの最後のひとりなんですよ〜。だから女の子だったらよかったのに、って。ジェイドさんは言いました」
「はぁ?」
膝の上に頬杖をつきながら、ロードは首を傾げた。もちろん眉根は寄せられ、目はプラムを睨んでいる。
「さっぱりまるっきり、ぜんっぜんイミわかんねーんだけど。分かるよーに話せ。分かるよ―にっ」

「うーん、ロードさんは手数のかかる人なのです〜」
ロードは、きりきり痛んできた頭に手を当てた。半ばどうでもよくなってきたが、ここまで聞いておいて、じゃあやめたと言うのも、ちょっと中途半端である。そのまま素直に相手の次の説明を待った。


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